長野県の最南端、秘境駅で有名になった険しい山に囲まれた天龍村。
全校生徒12人の中学校で「森林レボリューション計画」の中で木工指導をしてきました。
私が考える「森林と人の関わりの問題点」の中で、山に育っている 樹 が 加工 を経て建築物や道具に変わってゆく「樹=木材」と言う事を、頭では判っていても体験として理解していない事があります。
一昔前までは村や集落に製材所があり、野積みされた丸太が製材されて柱や板に変わって行く様子を日常的に見ることができたのですが、ほとんどの製材所が廃業してしまった現在では、中々実感として立木が生まれ変わってゆく様子が解らないのです。
天竜中学が父兄の協力を得て実践したのは、校内に立つ60年生の枇杷の木でした。
毎年沢山のビワの実を付け、暦年の先生や生徒たちに親しまれて来た枇杷の木を題材にして「森林レボリューション計画」は実行されました。
昨年、生徒たちが見守る中で伐採された枇杷の木。
簡易製材機を校内に持ち込み、やはり生徒達の見守る中で 板 に製材されました。
1年程の乾燥を経てこの ビワの板 から何を作りたいか検討を重ねた結果、「スプーン、木刀、木べら、音楽の先生に指揮棒、etc」が上がった様です。
中学校には立派な木工室があり、毎年 ヒノキのハンガー を制作して各方面に寄贈したりはしていた様ですが、硬いビワの木を扱うノウハウは先生にもなく私どもに協力要請と成った様子です。
70種を越える樹木を加工してきた私ですが、枇杷の木は始めて・・・。
まずは重さからかなり硬い材である事が想像できます。
調べてみると「緻密で硬い材で杖や木刀、印鑑等へ利用」とありました。
毎年沢山の中学生に「小刀を使ったスプーン作り」を指導していますが、使うのは削りやすいクルミや朴の木、始めて刃物を体験する子供達に「硬いビワの木は厳しい・・・」と申し上げはしたのですが「この計画の流れでビワを加工したい」との思いを断ることもできず、いろいろ準備して体験授業に挑みました。
使える時間は実質2時間。
見本を作るのに試しに奥様が小刀一本で作ってみると「4時間は欲しいよね・・・」との事。
「小刀で削るのは取っ手の部分だけで、スプーンの頭部分は後日ベルトサンダーで仕上げる」妥協策をとって、とにかく小刀の教習です。
いろいろな樹木の特性や違いの話をしたり、枇杷の木の薬効の話をしたり、盛りだくさんの講習会となり生徒数とさほど変わらぬ人数の先生たちも熱心に取り組んで頂きました。
当初の心配もよそに、怪我する子供もなく充実の木工体験となった事と思います。
秘境の小さな中学校で実践された有意義な体験授業。
多くの事を教えられる良い機会に感謝致します。